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オセアニア経済視察団(9/11-20)

中経連は9月11日(木)~20日(土)の10日間、勝野会長を団長、大島副会長を副団長、平松専務理事を団事務局長とする総勢38名の経済視察団を、オセアニアのニュージーランド・オーストラリアに派遣した。

はじめに
中経連は、スタートアップ・イノベーションの創出、エネルギー政策、まちづくり・都市計画、人材育成、日本企業のグローバル化に向け、現地の行政機関や企業などの取り組みを把握する目的で視察団を派遣した。
いずれの視察先においても、産学官の強い連携の下、オープンイノベーションを駆使した新規事業化やその支援に注力していた。さらに、優秀な人材を惹きつけるための魅力あるまちづくりに向けた取り組みも活発に行われていた。

タウポ周辺【ニュージーランド】
1.Nga Awa Purua Geothermal Power Station
タウハラ地熱発電所はMercury Energy社とTauhara North No.2 Trust社が設立した地熱発電所のひとつで、所有する2カ所の地熱発電所の総出力は約140MW(メガワット)に達する。もとは先住部族の土地であったが、政府が地熱発電の重要性を認識した19世紀後半に一部が国に渡り、1900年代初頭から開発を開始。1997年に両社が提携し発電所が稼働、2012年には新たな発電所も稼働している。現地住民の約9千人が信託に参加し、健康・教育支援や農業、観光事業に投資。植林や水質保全など自然保護に注力し、持続可能な地域振興を推進している。
 
地熱発電所視察の様子

2.Halcyon Green Hydrogen
ハルシオングリーンハイドロジェンは(株)大林組とTuaropaki Trustが共同出資して設立したグリーン水素製造・供給実証事業施設。地熱発電による電力を活用し、年間100~180トンの水素を製造しており、トヨタ自動車の水素燃料電池車「MIRAI」のカーシェアリングや水素バス・トラックに供給されている。大林組は国内外での水素事業拡大を目指し、2035年頃の輸出開始も視野に入れている。ニュージーランド政府による強力な支援と豊富な再生可能エネルギー資源を背景に、事業は順調に進展している。
同社は地熱発電所にも出資し、再生可能エネルギー事業も積極的に推進。ニュージーランドの電源構成は水力60%、地熱18%をはじめ再生可能エネルギーが8割以上を占め、安定したグリーン電力の供給が強みとなっている。水素製造におけるさらなるコスト低減にはプラントのスケールアップと安価な電力の確保が課題となっている。

Halcyon Green Hydrogenでのプレゼンテーション

オークランド【ニュージーランド】
3.Grid AKL
オークランドのインキュベーション施設であるGrid AKLに、在オークランド日本国総領事館の太田代(おおたしろ)首席領事のほか、現地政府外郭団体であるAuckland Council, Invest NZ、現地スタートアップのOpenStar社、Zenno(ゼノー) Astronautics社、アクセラレーター※であるUniServices社が集まり、ニュージーランドのスタートアップやイノベーション環境、経済状況について紹介を受けた。太田代首席領事は冒頭で、日本企業にニュージーランドの先進的なDXやGXに関するアイデアを持ち帰ってほしいと述べ、両国の協業可能性に期待を示した。
※スタートアップの成長をサポートするプログラムや組織のこと。

Grid AKLでのプレゼンテーション

(1)現地政府機関による活動
Auckland Council(Tataki)は直近の機構改革により市長直轄の組織となり、スタートアップ支援に注力している。福岡市とのイノベーション交流協定を締結したことが紹介され、中部地方との連携強化も呼びかけられた。
Invest NZは2025年7月に設立された外国投資誘致のワンストップ機関で、平和で安全な投資環境をアピールしている。
各機関が支援するスタートアップとして、次世代核融合技術を持つOpenStar社、宇宙衛星向け超伝導磁気技術のZenno Astronautics社、小型ロケット打ち上げで世界的に注目されるRocket Lab社が紹介されたほか、オークランド大学が設立したアクセラレーターのUniServices社の実績も紹介された。
(2)経 済
ニュージーランドの経済規模は日本の約17分の1で、人口は約500万人。ニュージーランド最大の都市オークランドに人口の約33%が集中し、国内GDPの約40%を生み出す一極集中型の都市構造を持つ。既存企業が主要産業で強固な地位を占めており、新規参入は買収を通じて行われることが多い。同国内において日本企業は農林水産や金融、電力分野で存在感を示している。国内市場が小さいため、スタートアップは国際市場、特にアメリカ市場への展開を目指しており、日本企業との協業による国際展開の可能性は十分にある。
(3)エネルギー
同国は電源構成の8割以上が再生可能エネルギーで占められ、主なエネルギー源は水力(60%)、地熱(18%)である。地熱発電からグリーン水素を生産する技術や超臨界地熱発電など技術革新も進んでいる。
(4)気候変動
農業由来の温室効果ガス排出が半分を占め、特に反芻動物から排出されるメタン削減が課題になっている。政府は2030年までに10%(2017年比)、2050年までに最大47%(同)の削減目標を掲げ、地球観測衛星やメタン抑制ワクチンの開発を推進している。
(5)スタートアップ・アクセラレーター
エネルギー産業では、Halcyon社(大林組が出資設立)やOpenStar社が2030年までの商業用核融合発電の実現を目指し、京都大学発のスタートアップ企業である京都フュージョニアリング(株)と連携していることが紹介され、日本との一層の提携を呼びかけた。
(6)宇 宙
同国は宇宙産業も急速に発展している。2006年に設立されたRocket Labのほか、南半球で初めて成功した民間ロケット打ち上げ、政府による宇宙庁の設立、世界初の宇宙担当大臣の任命などが、国家戦略として推進されている。また、オークランド大学をはじめとする研究機関と産業界の連携が強く、超伝導技術や衛星製造、九州の企業と連携する宇宙ごみの除去など、多彩な分野で成果を上げている。さらに、衛星軌道上サービスソリューションを提供する日本企業・アストロスケール社や岡山大学との国際協力も進展している。Zenno Astronautics社は超伝導磁石を宇宙空間で活用し、日本の全日空商事(株)や三菱電機(株)からの投資を受け、人工衛星の姿勢制御装置を開発している。UniServices社は大学研究の商業化を仲介し、スタートアップのリスク軽減と市場進出の加速を支援している。Zenno社も含め、同社が支援したスピンアウト企業の実績を紹介された。
【まとめ】
グリーン水素製造や地熱発電との連携、OpenStar社の核融合技術開発など、ニュージーランドの再生可能エネルギーと先端技術の融合は、日本企業との協業に大きな可能性を秘めている。両国は人的交流も活発で、ワーキングホリデーやJETプログラムを通じて信頼関係を築いている。今後はスタートアップの革新力と日本の資本・技術力を組み合わせ、経済関係を深化させることが期待される。

4.Rocket Lab
ロケットラボは、ミッションコントロールセンターからのマイクロドローン打ち上げや月ミッションを含む宇宙船を運用・管理している。2009年に衛星搭載宇宙船で事業を本格化させ、2013-2014年には原子力打ち上げ機の開発に向けた大規模資金調達を実施。2016年には民間初の宇宙港を開設し、静かな空域と高頻度打ち上げ環境を整備した。2017年には300kgのペイロード※を運搬できる小型ロケット「エレクトロン」の初打ち上げに成功した。2025年は20回以上の打ち上げを達成したほか、最大13トンのペイロードを運搬できる中型ロケット「ニュートロン」の打ち上げを目指している。
同社のビジネスモデルは「打ち上げサービス」「衛星・宇宙船設計製造」「宇宙ベースサービスと部品製造」で構成され、一気通貫した宇宙事業を展開。技術面では再突入能力を持つ数少ない民間企業であり、NASAのウェッブ宇宙望遠鏡にも部品を供給している。炭素繊維部品は社内で高精度に製造され、品質の確保と軽量化を両立している。生産体制は世界最大級の小型ロケット量産ラインで、11分に1機の生産ペースを誇り、約220名の熟練スタッフが2週間に1回の打ち上げを支えている。現在は稼働がオーバーフローしており、24時間3直制への移行を予定している。企業文化は「不可能を可能に」「激しい効率性」など6つのコアバリューを基盤に、イノベーションとチームワークを重視し、宇宙産業におけるリーダーとしての役割の発揮を目指している。
※輸送機器(トラック、飛行機、ロケットなど)が運ぶ積載物の重さ。

Rocket Labにおいて

5.Hiringa Green Hydrogen Refuelling Stations
本グリーン水素ステーションは、石油業界出身の技術者を中心に安全管理が徹底されており、法規制の整備が不十分な燃料電池発電機の燃料タンクを巡る課題に対しても関係当局と連携して対応している。
水素は40気圧で供給され、日本より高圧かつ24時間営業が可能であるほか、小規模な再生可能エネルギーの設備は許可が不要といった優位性がある。燃料電池トラックの開発は技術的課題や高コストにより遅れているが、ディーゼル車への水素混焼装置の導入が進んでおり、障壁の低さが期待される。また、水素の地産地消を基本とし、長距離輸送は非効率と位置づけている。トラック1台の燃料タンク容量は約50kgで500kmの走行が可能である。水素価格は世界最安の16.5NZD/kgで、環境負荷の低減に寄与している。今後も安全最優先の事業推進と法整備、技術革新を両輪に据え、効率的な供給体制の構築を目指している。

水素ステーション視察の様子

水素ステーション

メルボルン【オーストラリア】
6. 在メルボルン日本国総領事館
古谷徳郎総領事より、「日豪関係とビクトリア州について」と題して講演いただいた。

古谷総領事

日本はオーストラリアの約5倍の人口を持ち、GDPは同国の2倍以上だが、一人当たりGDPは半分程度に留まっている。一方、同国のGDPに占める外国直接投資(FDI)は約50%と高く、日本からの観光客数も増加傾向にある。日豪関係は政治、国防、貿易、投資、人的交流の5分野で強固に結びつき、特に日本は石炭や鉄鉱石、天然ガスなど、多くの資源を同国から輸入している。
また、ビクトリア州はオーストラリアの約3%の面積に過ぎないが人口は25%以上を占めており、近年においても増加傾向にある。同州には大学が多く、日本企業との研究連携も進んでいる。愛知県とは友好提携締結45周年を迎え、2024年に副知事らが訪問。日本企業の強みを生かし、今後もビクトリア州への投資や交流促進を目指していく。

メルボルンの街並み

Invest Victoriaにおいて

7.Invest Victoria
ビクトリア州政府の投資誘致機関であるInvest Victoriaの関係者から、同州の産業振興に関し説明いただいた。
ビクトリア州は多言語が対応可能な高度技能労働力を有し、独特な人口分布を生かした製品やサービスの市場投入前試験に最適な環境が整っている。日本は重要な外国直接投資国であり、2023年度-2024年度の日本からの投資額は約7億6千万USDに達している。日本企業は技術、生命科学、再生可能エネルギー、インフラ分野で存在感を放っており、両国の経済的結びつきは今後も強化される見込みである。
エネルギー分野では、2045年までにネット・ゼロ※1を目指す大胆なエネルギー転換計画を推進している。2025年までに再生可能エネルギー比率40%、2030年に60%、2035年に90%を達成する目標を掲げ、洋上風力発電や大規模エネルギー貯蔵の導入を加速させている。2035年までには6.3GW(ギガワット)相当のエネルギー貯蔵能力に拡大し、CO2排出ゼロ車両の普及促進やグリーン水素の推進にも注力しており、今後10年間で350億ドル規模のインフラ投資が予定されている。
同州で進行中のカーボンネットプロジェクトとして、CO2の輸送・貯留による排出削減技術のほか、ギプスランド地域の地質特性を生かし、国内外のCO2を海底に永久貯留する仕組みの構築について紹介があった。このプロジェクトは日本の(独)エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMC)との連携も強く、技術共有や投資パートナーの募集を進めている。CO2貯留は環境保護と経済成長の両立を目指す重要なプロジェクトとして注目されている。
建設分野ではModern Methods of Construction(MMC)※2を推進し、住宅供給不足の解消と生産性向上を図っている。州内には200社以上のMMC関連企業が存在し、規制改革やスキル向上のための「センター・オブ・エクセレンス」設立など、産業基盤強化に取り組んでいる。特に中高層住宅の技術導入に関心が高く、海外企業の参入機会も多い。
都市開発面ではメルボルン周辺の主要地区における成長戦略の説明があった。住宅・医療・高度製造業を軸にインフラ整備と雇用創出を推進するとともに、地下鉄駅の新設や大規模再開発による、都市競争力と住環境の向上を目指している。
イノベーション分野では、3,800を超えるスタートアップが活動し、20社のユニコーンを輩出している同州のスタートアップエコシステムが紹介され、特にフィンテック、医療・バイオテクノロジー、AI分野を強みとしており、同州のスタートアップ支援機関「LaunchVic」を通じた支援や女性起業家支援プログラムなど、多様な施策を展開している。また、失敗を次の成功につなげる文化が根付いており、起業家育成と資金調達の環境が整っている。
ビクトリア州は多様な産業分野での成長戦略と政府の積極的支援により、国際企業にとって魅力的な投資先としての地位を確立している。日本との連携強化を通じて、持続可能な経済発展とイノベーション創出を加速させることが期待されている。
※1 温室効果ガスが排出される量と吸収・固定される 
量の差し引きをゼロすること。
※2 材料と人的資源の効率を最大限に高めることで、新しい建物を迅速に建設することができる最新の建設方法。

8. Melbourne Connect
メルボルン大学は多様な学部と約5万人の学生を擁し、年間16億AUDの研究費で社会課題に取り組む実用的研究を推進している。同施設は、学術と産業界・政府・投資家・学生を一体化する先進的なイノベーション拠点として、2021年に開設された。説明時には施設の伝統的な敷地所有者への敬意が示され、先住民文化の継承と先進的な知識の融合が強調された。
同施設の敷地面積は7万4千平方メートルで、民間企業と学術機関が4:6の割合で構成されている。呼吸器の3D画像技術を開発した「4Dメディカル」などの先端企業や、韓国現代(ヒョンデ)自動車の自動運転研究企業が入居している。医療施設や研究センターとも隣接しており、医療機器イノベーションセンターも開設予定である。
同施設は257席のコワーキングスペースや起業家支援プログラムを備え、スタートアップの育成と産学連携を強力に支援している。建物には4,600個のセンサーが設置され、AIによるデータ活用も進むなど、多様な分野の企業と研究者が集うイノベーション創出拠点として機能している。

Melbourne Connectでの視察の様子

9.Toyota Australia Centre of Excellence
トヨタオーストラリアは約1,500人の従業員と約300のディーラー店舗を擁し、同国内シェアは22年連続トップである。現地生産は2017年に終了したが、脱炭素化に向けた多角的な「マルチパスウェイ戦略」を推進していることから、中核施設であるToyota Australia Centre of Excellence(CoE)は1億5千万AUDの投資を受け、ビクトリア州初の商業規模での水素製造・給油施設を備えている。水素技術の教育拠点としても機能し、特注ハイラックスの生産や水素燃料電池式無人フォークリフトの導入など、多様な取り組みを展開している。また、水素発電機の組み立てやバイオ燃料の研究も進め、2050年のネット・ゼロ達成を目指している。水素燃料電池車は主に大型商用車向けに展開しており、インフラ整備やコスト低減が今後の課題となっている。

Toyota Australia Centre of Excellenceでの視察の様子

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